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MKPエンジニアリング合同会社

目から鱗のエンジニアリング《No.1》温度は遅れる!?

温度は遅れる!?

それは 2004 年 5 月のタイでの出来事でした。
タイの Kangwal Textile 向 16KU30GA(5.1MW)のプラント。
KU30GA ガスエンジンはパイロット着火方式(着火に A 重油を使う)のタイプ で、2001 年に発表された新型ガスエンジンであります。初号機は三菱重工の横浜 金沢工場に設置され運開したのは 2002 年でした。

このタイのプラントは、2002 年 12 月に正式受注しましたが、初めての 海外での受注であり 28 台目の受注でした。つまり、2001 年に新型の ガスエンジン KU30GA(通称 MACH マッハ)を発表してから国内での受注が 既に 27 台もあり、非常に好調な売れ行きでした。当時は、環境の点から 重油焚きのディーゼルエンジンよりも CO2 排出量の少ないガスエンジンに 国内の顧客の志向があり、また政府の優遇措置もあり、爆発的に売れました。

受注後、本プラントの工事の PM となり、海外メーカーとのやりとりやFOB 工事だったことから客先側の土建・据付の業者との打合せ・指導などを行い、 2004 年の運転引渡しまで面倒を見ました。

2004 年の 5 月に漸く試運転ができるということで、重工よりコミッショニング 対応の 6 名(含む私)がタイのサイトへ乗り込みました。私以外の 5 名は、 各部署の精鋭達でエンジン、プラント、計装、機工、運転の専門家でした。 このガスエンジンの海外初号機ということで、部長室からの指示で精鋭が 集められました。

種々の懸念要素がありました。特に燃料ガスはタイの石油公社であるPTT からの供給でしたが、事前の情報ではガスはミャンマーの海底ガス田から きており、メタン価は高いが発熱量が低いということでした。日本と比べて 発熱量が極端に低いことからガス供給弁(SOGAV)を標準より大型のものに 変更しました。これにより配管も変更となり、従来のエンジンとは異なる状態と なり懸念の一つでした。

また、プラント補機の中に吸収冷凍機があり、これは客先手配のもので、ここに エンジンの一次冷却水を通す設計となっていて、通水量とバイパスラインへの 流量バランスの調整が大丈夫であるかも懸念の一つでした。 更に、キャタピラーの小型ガスエンジンとのパララン(系統連携して同時に運転) を実施する必要がありました。

5 月 24 日の初起動は意外のほかスムーズにできました。試運転期間中は 安定した運転であり、日本の都市ガス 13A よりもメタン価が高い分、 ノッキングが発生しにくく安定した着火でした。 また、吸収冷凍機への流量バランスについては、ライン流量計を用いて流量を 調整しつつ、弁開度を制御してちょっと大変でしたが、上手く調整できました。 キャタピラーエンジンとのパラランも何とかうまくいきました。

試運転中、すごく驚いたのは、空気冷却器の後流から出てくる給気ドレンの量が 大量に出てきたことでした。タイは湿気が多く、給気ドレンが日本よりも多いと 思っていましたが、配管からすごい勢い(水道の蛇口を目一杯開いた感じ)で 出ていたのは今も記憶に残っています。

試運転が進み、負荷運転に入っていきました。負荷上昇とともに一次冷却水の 温度が上昇するのですが、エンジン出口温度を 90°Cと設定して運転していくと、 一次冷却水温度が 90°Cを超えると 3 方弁で冷却器側に流すような制御となり 冷却を行います。しかしながら、温度上昇が収まらずに 95°Cを超えてアラームが 出てしまいました。

通常、この現象はオーバーシュートと言って、3 方弁の作動から時間遅れで 温度は上昇するがある程度で収まり、温度は下がっていき、最終的に設定温度と なるのですが、このプラントでは何回かアラームが発生してしまいました。

金沢工場でのプラントでは、一次冷却水の温度調整弁はワックス式であり、設定 温度は初期のワックスの設定で決まってしまいますが、このプラントでは熱回収を するということで、温度変化に敏感に適応するように空気作動式の 3 方弁を採用 していたので、設定温度は自由に変更できました。

そこで、若手の計装設計の S 氏に「設定温度を変更して、その設定を ある時間後に変化することは可能か」と確認したところ、簡単にできるとのことで、 先ずは 80°Cに設定して運転開始し、ある程度オーバーシュートが収まる頃に85°Cとし、またその後も安定してから 87.5°Cとして、最終的に 90°Cに設定を するということでこのアラーム発生の問題を解決することができました。

これは、吸収式冷凍機があったことから通常の一次冷却水の循環量よりも多量の 容量であり、熱当量が大きかったために温度変化が通常より時間が掛かったために オーバーシュート後のハンチングの収束に時間が掛かったためと考えられます。 この設定の時間置きの変更を‘ステップ制御‘と称して、その後の MACH プラント で標準的に採用するようになりました。

従来のディーゼルエンジンのプラントでは、負荷上昇は起動から徐々に 上げていき 100%負荷までは 50 分程度掛かっていたので、この一次冷却水の 温度設定を 90°Cにしておいても、オーバーシュートは大きくなく問題は 発生しませんでした。

ガスエンジンでは、着火性がよく燃焼が安定しているので、負荷上昇は 起動から 5 分程度で 100%負荷まで達することができます。この場合、 ディーゼルと同じように温度設定を 90°Cのままだと、負荷上昇による冷却水の 温度上昇が遅れるため、オーバーシュートが大きくなり、上記と同様の問題が 発生してしまいます。 そこを解決するのが、このステップ制御となります。ガスエンジンでは 欠かせない設計となっています。